ちょっと、声に出して言ってみてください。
ぶつぶつ……。
そして、今度は、
がみがみ!
どちらも、不満を言ったり文句を言ったりする場面で使われる言葉です。
でも、ずいぶん感じが違います。
「ぶつぶつ」は、小さく、内側にこもっている感じ。
「がみがみ」は、強く、外へ向かっている感じ。
ここまでは、私たち日本語話者なら特に不思議には思わないかもしれません。
でも今度は、意味ではなく自分の口に注目して、もう一度言ってみてください。
ぶつぶつ……。
がみがみ!
……口の動きまで、なんだか意味に合っているような気がしませんか?
「ぶつぶつ」は、口元にとどまる?
「ぶつぶつ」と言うときの口を観察してみます。
ぶ・つ・ぶ・つ……。

「ぶ」では唇がいったん閉じます。
そして、口を大きく開けなくても言うことができます。
何度か繰り返してみると、言葉が遠くへ飛んでいくというより、口元のあたりに小さくとどまっているような感じもします。
それは、ひとりで小さく不満をつぶやく「ぶつぶつ」の意味と、なんとなく似ています。
感情も小さい。
口の動きも小さい。
そして言葉も、自分の近くにとどまっている。
そんなふうにも感じられます。

では、「がみがみ」は?
今度は、
がみがみ!
と言ってみます。

「ぶつぶつ」とは、口の使い方も声の出方もずいぶん違って感じられます。
そして「がみがみ」には、たいてい相手がいます。
誰かに向かって、繰り返し強く文句を言ったり、叱ったりする。
感情が自分の中にとどまらず、相手へ向かって飛んでいくようです。
並べてみると、
ぶつぶつ → 小さく、内側へ
がみがみ → 強く、外側へ
という違いが見えてきます。
そして不思議なことに、意味だけではなく、実際に発音したときの身体の感覚まで、その方向に少し似ているように感じられます。

口の動きも、意味の一部?
ここで疑問が出てきます。
私たちがオノマトペから何かを感じるとき、聞いているのは「音」だけなのでしょうか。
それとも、実際にその言葉を発音するときの身体の感覚も、言葉の印象に関係しているのでしょうか。
「ぶつぶつ」を言うときの、小さな口の動き。
「がみがみ」を言うときの、外へ向かっていくような感じ。
意味と音と口の動き。
三つが連動しているようにも見えます。
もちろん、だからといって「この意味を表すために、この口の動きの言葉が生まれた」とは言えません。
でも、こうして実際に口にしてみると、ちょっと気になります。
「むっ!」は、もっと分かりやすい?
もうひとつ、試してみます。
むっ!
何かに気分を害したとき、思わず「むっ!」とする。
短い言葉です。
そして、言ってみると唇が閉じます。
むっ!
音も、そこで止まる。
なんだか感情まで、口の内側でぎゅっと止まったように感じられます。

これも偶然なのでしょうか。
それとも、音や口の動きと、私たちが感じる意味との間には、何かつながりがあるのでしょうか。

では、「もじもじ」は?
ここまで見ていると、ひとつの仮説を立てたくなります。
もしかすると、オノマトペの意味と、発音するときの口の動きには、すべて関係があるのではないか。
でも、日本語はそんなにきれいにはいかないようです。
たとえば、
もじもじ。
恥ずかしかったり、ためらったりして、落ち着かずに小さく体を動かしている様子。
どちらかといえば、外へ大きく感情を出すというより、自分の内側に縮こまっているような印象があります。
では、口の動きも、その意味に合っているのでしょうか。

試しに、存在しない言葉を作ってみます。
むじむじ……。
声に出して比べてみてください。
もじもじ……。
むじむじ……。
……口元の感じだけを考えると、「むじむじ」のほうが、なんとなく内側にこもっていて、本来の意味と合っているような気もします。
でも、日本語は「むじむじ」ではなく、「もじもじ」です。
どうやら、そんなに単純ではなさそうです。
意味は、どこからやってくる?

口の動きと意味が、不思議なくらい重なって見える言葉もある。
そうでもない言葉もある。
音そのものが、言葉の印象を作っているのでしょうか。
口を動かしたときの身体の感覚も関係しているのでしょうか。
それとも、長い間その言葉を使い、その意味を知っているから、私たちがそう感じるようになったのでしょうか。
ひょっとすると、いくつもの要素が重なっているのかもしれません。
でも、ここでは答えを決めなくてもよさそうです。
「ぶつぶつ」「がみがみ」「むっ!」「もじもじ」。
いつもなら意味だけを考えて使っている言葉も、実際に口にしてみると、また違った姿が見えてきます。
次にオノマトペを口にしたときは、ほんの少し自分の口にも注目してみてください。
その言葉の感じと、あなたの口の動きは似ていますか?
それとも、まったく似ていませんか?
日本語のオノマトペを眺めていると、答えが見つかるどころか、
またひとつ謎が増えてしまいます・・・



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